大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和63年(少)7828号 決定 1988年8月12日

少年 T・S子(昭49.3.1生)

主文

1  昭和63年(少)第4260号事件及び同第6956号事件につき、少年を大阪保護観察所の保護観察に付する。

2  昭和63年(少)第7828号事件につき、

これを却下する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  父が酒乱で多子貧困なため、小学校2年から同5年までの間に母、長姉及び次姉が相次いで家出して所在不明のままの崩壊過程を進む家庭環境に生育し、同高学年時から次第に怠学や家出を繰り返したうえ長期不登校になって同6年3学期に一時保護され、中学1年1学期は比較的登校はするものの夜遊び等の不良交遊を始めたうえ、その後は殆ど不登校のまま相変わらず夜遊び等の不良交遊を続けたため再び一時保護されたのであるが、その後も相変わらずの有様のうえ非行歴のある年長少年らと不純異性交遊も重ねて更に一時保護され、引続いて本年2月27日に教護院「阿武山学園」に入所措置されながら、間もなく無断外出して帰宅したまま従前どおりの生活状況にあるのであって、このままでは窃盗等の罪を犯す虞れがあり、

2  本年7月19日午前3時20分頃、大阪市浪速区○○×丁目××番先路上において、何者かが窃取して放置した中古自転事(時価13,000円相当)を拾得して、自己の使用に供する目的をもって横領し

たものである。

(該当法令)

1の事実につき、少年法3条1項3号ロ及びハ

2の事実につき、刑法254条

(処遇理由)

少年は、1のぐ犯によって本年5月20日に在宅試験観察に付されたのであるが、その後も登校は3日のみで殆ど不登校であり、夜遊び等の不良交遊も窺われるうえ、2の占有離脱物横領も犯したのであるから、監護能力皆無に等しい家庭環境(父は本年早々にくも膜下出血で意識不明に近い状態になったまま試験観察中の6月23日に死亡し、同居の家族は同様のぐ犯状態にある16才の兄のみである)に照らしてぐ犯性は否定し得ない。

しかしながら、少年の触法行為ないし犯罪としては、数年に亙る劣悪な家庭環境と不良行状にも拘わらず、軽微なそれが3件(小学校5年時に万引き1件と中学校2年時に原付盗1件でそれぞれ補導されたほか、本件中の占有離脱物横領)見られるのみであることを考慮すると、少年には犯罪抑制力が可成りあり、そのぐ犯性の程度は、矯正施設収容ないし強制的指置を伴う福祉施設収容に相当するものではなく、単なる教護院ないし相当程度の社会資源の存在を前提とする保護観察に相当するものと思料する。

ところで、本件中の第4260号事件及び第7828号事件の送致機関である児童相談所長は、少年を強制的措置を伴わない単なる教護院に入所措置(従前の入所措置は既に解除済み)する余地は無いとの意向であるから、そのような保護処分は断念することとし、かねてからの父の知人で、少年らに対して従前から住宅と食事を提供し、今後もそのような援助を続ける旨の意向を示している○○工業株式会社社長Aを社会資源としつつ、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項によって少年を大阪保護観察所の保護観察に付することとし、本件中の第7828号事件は少年を教護院に送致することと一体としての強制的措置許可申請であるところ、前記のとおり前者の決定をしないから、その必要性を欠くことに帰するのでこれを却下することとする。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 谷清次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例